光を見ると死んでしまう女の子のお話

あるところに、ひとりの女の子がいました。
女の子はとても美しく、優しい心の持ち主でしたので、彼女の周りには笑顔が絶えませんでした。
しかし彼女が住む国には、恐ろしい魔女によって、光を見ると死んでしまう呪いがかけられていました。


呪いがかけられた人々は、光に少しずつ命を吸い取られ、みな若くして命を奪われました。そしてとうとう、国外からやって来る者は誰もいなくなりました。
それでも人々は笑顔を絶やすことはなく、1日1日を大切に過ごしていました。


しかし呪いはゆっくりと着実に忍び寄り、朝の光は彼女を老いさせ、夜の光は彼女の心を蝕んでゆきました。
ある日、鏡の前に立った彼女は、だんだん変わりゆく自分の姿を見て言いました。


「どうして人間は成長するのかしら。まだまだ心は未熟なのに、どうして体ばかり勝手に大きくなるのかしら。」


いつか訪れる死を恐れた彼女は、深い暗闇の中へ閉じ籠るようになりました。誰にも会わず、真っ暗な部屋の中で毎日を過ごすようになりました。
暗闇の中では、老いていく自分を見ることも、眩しい光に目を細めることもありません。
けれど彼女は、長寿と引き換えに、人の温もりを手放していました。


そんな彼女に寂しいという感情が芽生えるのに長い時間はかかりませんでしたが、彼女はその感情を圧し殺し、死への恐怖で心をいっぱいにしていました。



それから幾年か過ぎ、国民が誰もいなくなったと国外で噂されるようになった頃。
あるひとりの青年が、その国へ訪れました。


青年は学者でした。
生存者を探すため、呪いを解く方法探すため、彼は国中を回りました。


町の中にたくさんの墓標が立っていることもあれば、そのまま死体が転がっていることもありました。
しかし、いくら広い森の中を探しても、小さな町の中を探しても、地下や、井戸の中を探しても、なかなか生きている人間を見付けることはできませんでした。


半ば諦めかけていたとき、彼は小さな町の中にひとつだけ、不思議な雰囲気を漂わせる家があることに気が付きました。
家中の戸を締め切り、鍵を厳重に掛け、門にはたくさんの薔薇が客人を拒むように一面を覆っていました。


彼は流行る思いを抑えながら、鍵をひとつひとつ丁寧に解いていきました。


全ての鍵を解き、重い扉を開けると、家の中にひとりの女の子がいることに気が付きました。
彼は嬉しくなり彼女の元へ駆け寄りましたが、彼女の顔を見たとたんにとても恐ろしくなり、目を見開きました。


彼女の瞳は、闇を捕らえたかのように真っ黒でした。

その姿は、今まで見てきたどの死体よりも、生を感じさせないものでした。

今にも死んでしまいそうな声で、彼女は弱々しく彼を拒絶しました。


「いや、来ないで、光はいやなの。来ないで。わたし、しにたくないの。お願いだから、こっちに来ないで。しにたくない。しにたくないの。」


しにたくない、しにたくない、と何度も呪文のように唱える彼女を見て、彼はとても悲しくなりました。
そして彼女を見おろしながら、こう言いました。


「僕には君が、生きているようには思えない。君はひとりぼっちで、とても孤独だ。死ぬことに怯えて、こんなにも体を冷たくして、それでも君は、生きていると言えるのかい?」


彼の言葉にびっくりした彼女は、瞳から大粒の涙を溢しました。
彼が彼女をそっと抱き締めると涙は止まらなくなり、彼が涙を拭ってあげると、彼女の瞳は涙で青く染まっていました。


優しい温もりの中で彼女は、彼の瞳の中に小さな光を見付けました。


そして彼女は彼と一緒に彼の住む国へと帰り、小さな光とともに、末長く幸せに暮らしました。


彼女が死ぬと国にかけられた呪いは解け、二度とその国に光が降り注ぐことはなくなりました。